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X 1 JAILHOUSE ROCK (MIKE STOLLER-JERRY LEIBER)
1957/04/30 2001-03.FS
2001-04.PB
2001-05.PB
2001-06.M
"ELVIS BY THE PRESLEYS"
"ELVIS BY THE PRESLEYS"
"ELVIS BY THE PRESLEYS", EE, JRS
EP "JAILHOUSE ROCK", "CLOSE UP", JRS
2002-02.M 2002(コーラスのオーバーダブ)単独では未発表(1分25秒)
2001+2002 MIX EE
1957/05/07 2019-01.M DVD "ELVIS IN HOLLYWOOD" (2019単独では未発表 : おそらくピアノのイントロのみ)
2020-01.M 未発表 (おそらくエンディングのみ)
1957/05/08 2411-01.M 未発表ロング・バージョン (2411はアセテート盤の曲コード : おそらく 2019 + 2001 + 2002 + 2020)
Summer 1957 FILM VERSION DVD "JAILHOUSE ROCK"
   JRS = 海賊盤 "THE JAILHOUSE ROCK SESSIONS"    EE = CD "ESSENTIAL ELVIS"

 「2001」(レコード・バージョン)は、ラジオ・レコーダーズ・スタジオでスタートした「監獄ロック」セッションで最初に歌われました。MGMは(オーバーダブをしましたけど)映画にテイク6を使用することを決めていたのに、RCAには1957年08月22日にテイク5とテイク6を引き渡しています。映画とは別のテイクをRCAにレコード化させたいMGMの意図みたいなものが、この他の曲でも見られるのですが、版権上、そのようにしたかったのでしょうか?
テイク5は「BEGIN FADE AT 1:50」、テイク6は「BEGIN FADE AT 2:15」と記されていますが、同内容のコピー・テープを使用したと思われる海賊盤「THE JAILHOUSE ROCK SESSIONS (Laurel 2502)」には、フェイドアウトするものの長めのエンディングが聞かれますから、RCAはMGMから受け取ったテイク6を、より急速にフェイドアウトさせたのであろうと推測しています。
CD「ELVIS BY THE PRESLEYS」で発表されたテイク3〜5や、4CDs「CLOSE UP」に収録されたフェイドアウトで終わらないマスターなどは、1957年にRCAへ渡されずにその後もずっとMGMで保管されていたバイノーラル・テープを使用したのでしょう。
BOOTLEG

TAPE
RCAに送られたテープ(コピー)

2001-3.FS 4.PB 5.PB

2001-6.M (Record Master)
tapelegend
右上テープのテープレジェンド拡大

2001-2002
MGMの録音記録「DAILY MUSIC REPORT」: X1 Jailhouse Rock 2001 & 2002

 「2002 (pick-up to instr,chorus & on)」は、コーラスのオーバーダブです。
「2001-6(レコード・マスター)」と「2002-2(コーラス)」をミックスして完成した「コーラス付きバージョン」は、「2002」バージョンとして引き渡され、1957年6月14日にRCAでファイリングされて、シリアルナンバー「H2WB-6780」を与えられましたが、CD「ESSENTIAL ELVIS」で発表されるまでずっとお蔵入りしていました。「H2WB-6780」のファイルには、レコードナンバー「CPL2-4031」と書き込まれていますが、「This Is Elvis (CPL2-4031)」で発表された「JAILHOUSE ROCK」は、通常のマスター(2001-6)ですので、この理由を調査中です。
H2WB6780
2008年夏版情報 (説明追加)
CD「ESSENTIAL ELVIS」収録の「コーラス付きバージョン」は、2分36秒の長さがあるのに、MGMの録音記録では「2002-2」が1分25秒であると記されています。CD「ESSENTIAL ELVIS」で初出の「コーラス付きバージョン」で、♪ Go-go-go ! Lay it on me, Daddy-O ! 〜 ♪ とコーラスが歌い初めてからエンディングまでの時間を計ると、およそ1分25秒になることが分かりましたので、2つの仮説を立ててMGMがコーラスが付けられた時間(1分25秒)のみを記録している理由を考えてみました。

パターン1:映画会社は、フィルムをつなぎ合わせて映画を作ります。音声トラックも同様に、劇中「監獄ロック」が流れる場面で、
  1.イントロ (1957年夏頃に録音)
  2.エルヴィスだけが歌っている前半(55秒) = 2001バージョン
  3.コーラスが付けられた後半(1分25秒) = 2002バージョン
  4.エンディング(1957年夏頃に録音)
の4つのバージョンを「つなぐ」という考え方で記録を残した。

パターン2:オーバーダブにバイノーラル・レコーダーを用いたので、片チャンネルに2001バージョンをダビングしておき、残りのチャンネルに2002バージョンをオーバーダブという考え方で記録を残した。

MGMの録音記録「DAILY MUSIC REPORT」の2001-6の収録時間が(インクが滲んでいますけど)「55(59?)秒」に読めるので、私は「パターン1」だと思っているのです。だから「パターン2」は、旧サンマガNo.13には書きませんでした。
ESSENTIAL ELVIS
ESSENTIAL ELVIS

 「2019-1」「2020-1」は、MGMのサウンドステージで録音されました。「振り付け練習用」と思われる バージョンがDVD「ELVIS IN HOLLYWOOD」に登場し、「2019-1」とコールされています(撮影は1957年5月14日)。確実な情報がありませんが、ピアノのイントロ部分が「2019-1」で、エンディング部分が「2020-1」と思われ、「コーラス付きバージョン」を挟み込む形でスプライシングした編集物がロング・バージョンではないかと想像しています。
web追加情報
サンマガNo.13に記事を投稿後、MGMのサントラ・セッションに関する情報が新たに入手出来まして、どうやら「2400番台」の曲コードは、アセテート盤に与えられた番号であることが分かって来ました。ですからこのロング・バージョンには、アセテート盤(→)に記された「2411-1」以外に、未だ知られぬ「2000番台」の曲コードが与えられているだろうと思います。


ACETATE
ピアノ・イントロの監獄ロック
 「監獄ロック」のフィルム・バージョンについては、2000番台の曲コードを見つけることが出来ませんでした。ホーン付きのイントロ等は、1957年の夏になってからオーバーダブされたようです。DVD化(→)された「監獄ロック」は、2番の歌詞でボーカルや演奏が2重に聞こえる部分があります。
web追加情報
2007年に発売されたDVD「JAILHOUSE ROCK : DELUXE EDITION」では、上記音声変換ミスが解消されています。エルヴィスのボーカルが片方のスピーカーから聞こえるバイノーラルではなく、丁寧にステレオ・ミックスされていますので、「一聴」の価値がありますよ。

 タイトルバックで流れるインストルメンタルも1957年夏の録音なのでしょうが、資料は見つかっていません。

Film Version


「JAILHOUSE ROCK」:弟子との対話(笑)

Q:MGMはRCAにテープを引き渡したとき、テイク6を映画で
 使用することをRCAに伝えていたのでしょうか?

A:テープ(1957年8月22日)がRCAに渡された時には、
 7月の終わり頃から始まった映画向けオーバーダブも済んでいて、
 映画での使用バージョンが最終決定されていたので
 「MGMではテイク6を使うけど」と申し送りが出来たのでしょう。
 しかし、それ以前に渡されたテープに、
 何処まで説明が加えられていたのかは分かりません。
 私は、こんな風に考えているのです。

H2WB6779  MGMの管理下でレコーディングが4月30日からスタートして
 およそ2週間で「レコード向けマスターの元」が完成し
 それを受け取ったRCAは、1957年6月14日にファイリング(→)しています。
 この時点でRCAは既にテイク6をレコード・マスターに決めていたようなのですが
 サン・レコードから買い取ったマスターが
 全て「RCAのテイク1」と記録されたように
 MGMから買い取ったテイク6を、単に「マスター」として扱いましたので
 残念ながらこのファイルには、テイクに関する記述がありません。
 この時に受け渡されたテープに張られていたであろうテープ・レジェンドも
 発表(発掘)されていないので、
 一体、それぞれの曲に対していくつのテイクが受け渡されたのか、
 RCAがどのテイクをマスターに選んだのかは、明確になっていないのです。
 これが私の悩みであり、探求する楽しみにもなっているのですけど。。。

 1957年6月14日のファイルには、既に「監獄ロック」の「コーラス付きテイク6」が
 記されており、後に「Essential Elvis」で発表されましたが、
 1957年8月22日のテープ(2本目?)には、これが入っていません。
 ですから、最初のテープ(1957年6月14日)を渡した時点では、
 「アンダブドのテイク6」と「コーラス付きテイク6」が
 「監獄ロック」のマスター候補にされていたのではないかと思うのです。
 (結果はもちろん「アンダブドのテイク6」です)

Q:また、映画とは別のテイクをレコード化させたい意図が
 MGMにあったのなら、テイク4とテイク5を引き渡しても
 よさそうに思えますが、何故テイク5とテイク6だったのでしょう?

A:1957年6月14日には、テイク4も渡していたのかも知れませんが
 テイク4はエンディングが「あれっ!?」ですから
 1957年8月22日のテープレジェンドではオススメしなかったのでしょう。
 テイク(4と)5は、4番の歌詞「The sad sack was a sittin' on a block of stone 〜」が
 抜けていて、2分以内で収まるので「シングル向き」として薦められたのかも。

Q:海賊盤「THE JAILHOUSE ROCK SESSIONS (Laurel 2502)」に収録されている
 「フェイドアウトするものの長めのエンディングが聞かれる」テイクはテイク6ですか?

A:テイク6です。今では、4CDs「Close Up」のテイク6が「完全版」ですね。

Q:バイノーラルとステレオはどう違うのでしょうか?

A:現在一般に知られているバイノーラルは、人型の模型の耳の位置に
 マイクを仕込んで録音して、再生時にヘッドホンを使うと、
 録音した状態の「音場」が再現されるというものですけど、
 エルヴィスが関わったバイノーラルはそれとは違い、
 録音テープのトラックが1本のモノラルに対し、
 トラック2本で録音するので「バイ」ノーラルと呼ばれていました。
 実はこの「映画界が使用していた(?)」バイノーラルに関しては
 あまり詳しく語られた資料がありません。
 憶測だけで説明します(笑)

 私が考える「映画界がバイノーラルを使用した一番の理由」は
 「映画には吹き替えがある」です。
 さすがにエルヴィスの歌声を吹き替えることは無かったとは思いますが
 「台詞」と「その他音声(効果音含む)」を別々に録音する必要があったので
 それに合わせて、「歌」と「伴奏」を2トラックに振り分けたのではないかと。
 ですからこれまでに発表されたバイノーラル録音では
 エルヴィスの声が右か左のどちらかに偏っていますね。

 しかし、映画界に「ステレオの観念」がいつ頃からあったのかを調べないと、
 全てをこれで片付けられなくて、実際にバイノーラルで録音されたと思われる
 「Love Me Tender」が、ステレオ(エルヴィスがセンター)で発表されているのです。
 20世紀FOXがステレオ・ミックスしたのか?
 「Love Me Tender」を録音したバイノーラル・テープが2種類あって、
 BMGがステレオにミックスし直したのか?
 そんな疑問が解けないので、「やさしく愛して」の調査が止まってしまったのです。
 「Poor Boy」、「Let Me」と「We're Gonna Move」はバイノーラルなんですけどね。

Q:1957年6月14日のRCAファイルの下の方に
 「LSP 2011 A DATE WITH ELVIS」という文字が見えますが、これは
 LP「A DATE WITH ELVIS」の作成に、このファイルを使用した
 ということを意味しているのでしょうか?

A:「Young And Beautiful」、「Baby,I Don't Care」、「I Want To Be Free」の3曲は
 EP「Jailhouse Rock」のあとにLP「A DATE WITH ELVIS」でも発表されました。
 1959年発売のLP「A DATE WITH ELVIS」はモノラルで「LPM 2011」でしたから
 この「LPM 2011」は、曲名の欄にタイプされています。
 「LSP 2011」は1965年の擬似ステレオ盤のナンバーですので、
 モノラル・マスター・テープに対するこのシートでは
 欄外に記しているのではないでしょうか。
 私はそんな風に読み取っていますが、私が気になっているのは
 「H2WB 6780」の「Jailhouse Rock」の欄に「CPL2 4031」と書かれていることで
 このレコード・ナンバーは「This Is Elvis」なのです。
 「This Is Elvis」には、通常マスターのテイク6が入っているのに
 このシートでは「コーラス付き」が使われていることになっているんです???
 なぜか「This Is Elvis」では発表されなかった「コーラス付き (H2WB 6780)」は
 その後、「Essential Elvis」で発表されることになりました。

Q:6月に一度RCAにテープを渡しているにもかかわらず
 MGMが、8月にもう一度RCAにテープを渡したのは
 8月に渡されたテープに収められているテイク6が
 「レコード・マスター」に使用されていることと
 何か関係があるのでしょうか?

A:この関係は分かりません。
 しかし「WE ALSO HAVE A BASIC MUSIC TRACK ON "I DON'T CARE"」のコメントから考えて、
 おそらく8月のテープは、RCAから「もう他には無いの?」と要求されて
 作られたのでは無いかと思っているのですが、
 少なくとも「Jailhouse Rock」のテイク6はダブって渡されたことになるんですよね。
 テープを要求したのはRCAの「Steve Sholes」で、
 テープを作ったのは、MGMを「they」と呼んでいる「Thone Nogar」
 (Radio Recorders でのエンジニア)だと思います。

Q:(4CDs「CLOSE UP」の)ライナーノーツに書かれている

 >エルヴィスの声が最後の部分でかすれてしまった。
 >エルヴィスは曲全体を歌い直すことはせず
 >間にスコティ・ムーアのギターをはさんで
 >最後の1節だけを歌い直した。

 という文章はどう解釈すればいいのでしょう?

A:まず、この「Jailhouse Rock」のスプライシング説の前に
 他の曲で混乱させられている部分を説明します。

 8月22日のテープレジェンドに書かれた「Young And Beautiful」の説明に
 「ON 2004 they used TAKE 18 which is a combination of 18 & 12 〜」と
 書かれていますよね。つまり未編集の「TAKE 18」と編集された「TAKE 18」を
 両方とも「TAKE 18」と呼んでしまっているのです。

 それと同様に、「I Want To Be Free (2010 version)」の「TAKE 11」にも
 未編集版と編集版の「TAKE 11」が存在し、「Essential Elvis」で発表された
 「I Want To Be Free (2010 version)」は、「TAKE 11」のアナウンスが
 付けられているので、未編集版であるかと思いきや、
 6月14日にファイリングされた編集版テイク11の「ようなのです」。
 先に渡された6月14日のテイク11を未編集と考えるKeith氏と、
 聞き比べてみて、6月14日のテイク11を編集版と考える私とで
 全く考えが逆になっているのですが・・・これはそのうちに。

 「I Want To Be Free」と同様に「Jailhouse Rock」のテイク6も、
 テイク6と呼ばれているだけで、未編集版テイク6なのか
 編集版テイク6であるのかは分かっていないのです。

 さて「Jailhouse Rock」が声のかすれを理由にスプライシングされたという話ですが
 このスプライシング説は、それを証明する資料や発表された別バージョンが
 無いので、ライナーノーツの話を信じても、内容に関しては推測するしかなく、
 答えが出ていないので、「夏恒例憶測祭り」ですよ。

 スプライシングされていたとするならば、MGMの録音記録から考えて
 「2002」が、その作業だったと思います。
 しかし「2002」にはレコード・バージョンには聞こえない「chorus」と書かれ、
 収録時間が「1:25」となると「最後の1節だけ」に当てはまりません。
 ヨルゲンセン氏が「2002」をその作業であると発言しているのは聞いたことが
 ありませんが、Keith氏は「2002」を「かすれ対策」だと解説しています。
 いささか強引ですが、私がKeith氏の説に助け船を出すとしたら・・・

   コーラス付き「2002」でもエルヴィスは歌い、バイノーラル録音され、
   コーラスがミックスされていないエルヴィスのボーカル・トラックだけを
   「2001」バージョンのボーカル・トラックと差し替えた。
   もちろん「2002」は「コーラス付きバージョン」として残された。

 こんなところでしょう。

 「2002」以外でスプライシング説を進めるならば、
 「2001」のテイク7か8辺りで歌い直した可能性が考えられますが
 「Young And Beautiful」について「TAKE 18だけど、ホントはTAKE 18と12 〜」と
 事細かに編集を説明してあるのに、「Jailhouse Rock」については
 フェイドアウトの話しかしていないので、この可能性はゼロに近いのかと。

 「声のかすれ」よりも、テイク6でいきなり4番の歌詞が増えていることに注目した方が
 「スタジオでの真実」への近道のような気がしてはいるのですが。


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