What a Wonderful Life
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 FTD盤の聞き方 〜 第2回 〜 「Rags To Riches」

 2008年8月31日(日)ウェブマガ第2号 (発行 インスタント伯爵)

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前回のウェブマガの「Got My Mojo Working/ Keep Your Hands Off Of It」に続き、
今回も FTD「Love Letters From Elvis」 (→)から、「Rags To Riches」を取り上げます。
実はこのウェブマガ第2号で本邦初公開となる情報は、 この海外サイトで既に読むことが出来たのですが、「I cheched these out digitally.」などと、 英語らしからぬ言葉の書き込みを信用して良いものかどうかは・・・文章を短く切り詰めたりしているうちにこんなことになりました(汗)
まあ、この情報を教わったKeith氏のサイトが、その日のうちに更新しましたので、それほど間違った情報ではないと思いますけど(笑)

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  もくじ
  1.セッション情報
  2.マスター決まらず
  3.FTD「Love Letters From Elvis」Disc1-Track23 (rehearsal, take2)
  4.FTD「Love Letters From Elvis」Disc2-Track14 (take 3)
  5.FTD「Love Letters From Elvis」Disc1-Track14 ("New" Master)
  6.「エルヴィス考古学」的考察:「70's Masters」バージョンの正体

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Love Letters From Elvis
FTD「Love Letters From Elvis」
1.セッション情報

1970年9月22日、テネシー州ナッシュビルのRCAスタジオBで行われたセッションでは、次の4曲が録音されました。

   Snowbird
   Where Did They Go Lord?
   Whole Lotta Shakin' Goin' On
   Rags To Riches

実は前日(9月21日)からスタジオが準備されていたのにエルヴィスは訪れず、この22日は夜6時から深夜1時までレコーディングしただけです。翌23日にはオーバダブ・セッションにRCAスタジオBが使われていますから、当初、1970年6月の「マラソン・セッション」並の予定が立てられていたように思います。それなのにエルヴィスは22日のセッションから逃げ出すようにロス行きの飛行機へ足を向けました。
エルヴィスの不機嫌な様子やFTD「Love Letters From Elvis」の「Rags To Riches」に聞かれるハイ・テンションな様子には、様々な理由が噂されていますが、もしかすると翌年6月を最後に、ナッシュビルでのレコーディングを止めてしまう理由の「火種」がこの時に起きていたのではないかと思うのです。
「エルヴィス・カントリー」ではなく「エルヴィス・フォーク」のコンセプトが、この時既にエルヴィスの頭の中にあったのではないかと・・・

2.マスター決まらず
そんなこんなで、同日に歌われた最終曲「Rags To Riches」は、「マスターはこれだ!」と言えるテイクが録られないまま、セッションが終了してしまいました。「Rags To Riches」には、翌日にピアノやコーラスがオーバーダブされただけで、管楽器と弦楽器等は聞こえませんので、この時期のエルヴィスの作品にすればシンプルであり、聞き比べる対象とすれば物足りないかと思いきや・・・そうでもないのです(笑)
今回のウェブマガでは、16Trのマスター・テイク・テープ(↓)に書かれたメモや過去に発売された様々な種類の「Rags To Riches」を情報ソースとして、FTD「Love Letters From Elvis」の各テイクを分析することにします。
「2-Cuts」のメモ(↓)から、マスターに決められないまま2種類のテイクがオーバーダブに回されたことが分かるのですけど、「NOTE-LAST CUT MASTER ALSO USE A PART OF FIRST CUT」のメモは、既にスプライシングで完成されたマスターテイクがこのテープに入っているようにも読めます。この理由にも私なりの判断を下しますよ。

Snowbird


Where Did They Go, Lord


Whole Lotta Shakin' Goin' On
16Tr

3.FTD「Love Letters From Elvis」Disc1-Track23 (rehearsal, take2)

FTD「Love Letters From Elvis」で初出となった悪ふざけのリハーサル・テイクを聞くと、マスター・テイクで差し替えを余儀なくされた「cuss me (私を呪って)」が「歌い間違い」ではなく、わざとそのように歌ったことが推察できます。このリハーサル・テイクでは声を出していませんが「f**k me」のニュアンスが伝わり、ライブで度々歌われた「Jailhouse Rock - Don't Be Cruel」メドレーでの「before I kick your a**」同様に、声を出さないことで笑いを誘っているんですね。マイクを落とす等、好き放題やったあとに「フェルトン、これをカット(レコードに)しろ!」なんて言っています(笑)
波形(↓)を見ていただくと分かるように、リハーサル・テイクを歌い終わってから約1分15秒間は、「テイク・ワン」のアナウンスが聞こえるのに「12時半にはスタジオを出なきゃいけないんだ」とか「ジャマイカから来た男がこんな笑い方をするんだよ」とか取り留めもない会話が収録されているだけで、すぐに FTD「The Nashville Marathon」 で発表済みのテイク2に移ります。

疑問:テイク1は飛ばされてしまって録音されなかったのでしょうか?

この疑問にヒントを与えてくれるのが、YouTubeにアップされた FTD「The Nashville Marathon」 収録のテイク2(→)でして、これにはFTD「Love Letters From Elvis」には収録されなかった「テイク・ツー」のアナウンスが聞こえるのです。つまり、少なくとも約1分15秒間の会話のあとに取られたであろう「テイク・ツー」のアナウンスがカットされていることが分かるので、FTD「Love Letters From Elvis」では、テイク1もカットされている可能性が考えられるのです。放送禁止用語をバンバンと発表してしまったFTD「Love Letters From Elvis」にも収録出来なかったほど「すごいテイク1」なのでしょうか(笑)

The Nashville Marathon
FTD「The Nashville Marathon」


Rags To Riches - Take 2
Disc1-Track23

4.FTD「Love Letters From Elvis」Disc2-Track14 (take 3)

FTD「Love Letters From Elvis」で発表されたテイク3は、1970年9月22日に録られたスタジオ・テイクであるとは言えません。なぜなら翌日23日にオーバーダブされた「The Imperials」のコーラスが聞こえるからです。「コーラス無しのテイク3は、Essential Elvis Vol. 4: A Hundred Years From Now で発表済みだからいいじゃないか!」と仰る方もいるかと思いますが、そんな簡単な話でもないのです。

1.テイク3のエンディングがエルヴィスのファルセット・ボイスで締め括られていたことがFTD「Love Letters From Elvis」で発表されたので、これが聞こえない「Essential Elvis Vol.4」 バージョンのエンディングは編集されていたこと。
2.16Trのマスター・テイク・テープ(↓)に収められた「2-Cuts」のうちのひとつは、FTD「Love Letters From Elvis」で発表されたテイク3であり、それにはコーラスのオーバーダブがつけられたこと。
3.16Trテープの13番目のトラックにオーバーダブされた「ピアノ・イントロ」は、テイク3ではないもうひとつのテイクに付けられたか、もしくは単独のパーツとして録音されていること。

これらは単なる推測ですが、おそらく合っているのではないかと。

Essential Elvis Vol. 4
Essential Elvis Vol. 4
16Tr

5.FTD「Love Letters From Elvis」Disc1-Track14 ("New" Master)

私が確認しただけでも「Rags To Riches」には3種類のマスターが存在します。
【マスター#1】
FTD「Love Letters From Elvis」 (→)に収録されたマスター・テイクは、ふざけて歌った「cuss me (私を呪って)」をテイク3の「kiss me」に差し替えたテイク4ですが、

 1.「ピアノのイントロ」を付け足し
 2.コーラスやオルガン等のオーバーダブを施し
 3.「cuss me」の部分(その前後を含め)をテイク3の
   「that I'm living for, hold me and kiss me and tell me you're mine evermore」
   と差し替えてあり、

この「3」の差し替え方は過去に発表されたことがないものでした。
「that I'm living for」の「that」が2重に聞こえますので、FTD「Love Letters From Elvis」をお持ちの方は確かめてみて下さい。

【マスター#2】
「Where Did They Go, Lord」とのカップリングで1971年2月に発売された「シングル・マスター」の編集方法は、こんな感じでした。
「シングル・マスター」は、テイク4に

 1.「ピアノのイントロ」を付け足し
 2.コーラスやオルガン等のオーバーダブを施し
 3.「cuss me」の部分(その前後を含め)をテイク3の
   「hold me and kiss me and tell me you're mine evermore」と差し替えて

完成しました。「3」の差し替え方がFTD「Love Letters From Elvis」バージョンとは違いますね。「シングル・マスター」は、Elvis Aron Presleyに収録されています。

Love Letters From Elvis
FTD「Love Letters From Elvis」


Elvis Aron Presley
Elvis Aron Presley
【マスター#3】
1995年に発売された 「Walk a Mile in My Shoes: The Essential 70's Masters」 に収録されたマスター(→)について分析しますと、

 1.「ピアノのイントロ」のオーバーダブが無く
 2.コーラスやオルガン等のオーバーダブも無し
 3.「cuss me」の部分にテイク3の「kiss me」を貼っただけ・・・

つまり、テイク4にパパッと細工をしただけなので、「cuss me の me」と「kiss me の me」がダブって聞こえたりして、とてもプロの仕事には思えないのです。
この理由を考えるのは、アマチュアの私(笑)
しかし自称エルヴィス考古学者の想像力は、それなりのエンターテイメントを生み出すことになります。(自画自賛)


「70's Masters」バージョン

6.「エルヴィス考古学」的考察:「70's Masters」バージョンの正体

【考察の軸】
今回のウェブマガでは何度も「cuss me (私を呪って)」と書いていますが、これはプライベート盤で発表された「未編集テイク4」を聞いた上での情報であり、正規盤では「未編集テイク4」は未発表のままです。その他の放送禁止用語は発表されているのに、「cuss me」の発表はレコード会社が強く拒否している・・・これが「70's Masters」バージョンの正体を解明する上での考察の軸になりました。

【迫られた条件】
「cuss me」を絶対に世に出してはいけないとの判断が、現在のBMGだけでなく1970年代のRCAにもあったとすれば、間違って流出しないように応急的にでも処理をする。
オーバーダブは翌日。丹念な作業は出来ない。

ここまで書けば、みなさんにも私の推測を読み取っていただけたでしょうか?

【2008年8月の結論】
「70's Masters」バージョンの正体は、16Trテープ(↓)に収められた「2-Cuts」のうちのひとつで、「cuss me」の歌詞を応急的にテイク3の「kiss me」に差し替えたテイク4だったのです。
小さな絆創膏「kiss me」を貼っておいてオーバーダブ作業をしたあとに、大きな絆創膏「hold me and kiss me and tell me you're mine evermore」を貼ったものが、「Elvis Aron Presley」にも収録されている「シングル・マスター」だった・・・ 話が成立しますね。

実は今週じっくりと「Rags To Riches」を調べ直すまで、長年私はこの説に辿り着けないでいました。
どうせ、いい加減な奴が「70's Masters」の作成に関わっていたのだろうなんて風に考えていたのです(笑)

70s Masters
70's Masters

Elvis Aron Presley
Elvis Aron Presley
16Tr
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ウェブマガ第2号は結構内容が濃かったでしょ?
まあ、間違っている可能性もあるんですけど(笑)、これぐらいじっくりと調べた結果を読んでいただければ、
みなさんも FTD「Love Letters From Elvis」 を聞く楽しみが増えることと思います。

さて、次回のウェブマガ発行に関しては、現在未定となっております。
私が聞かなければどうにもならない・・・この状態を脱するべくセッション関連に詳しい方を探していますので、
どなたか「俺も」、「私も」と声を上げてくれる人がいましたら SNS「エルヴィス」 に御参加くださいませ。


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