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 余分な話 〜 第1回 〜 「闇に響く声」セッション:5種類の音源

 2008年9月13日(土)ウェブマガ第3号 (発行 インスタント伯爵)

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ウェブマガ第3〜4号で取り上げるのは「闇に響く声」セッションです。実を申しますとこの記事は、5CDs「60's Masters Box」の日本語ブックレットに載せられた解説文で「研究の余地あり」とのコメントを残したまま、そのあとず〜っと「余地」を埋めてくれない(笑)大瀧詠一さんに向けて書き始めたものでした。 大瀧さんに伝えたかったのは「パラマウントから受け取ったテープに、RCAがリバーブを掛けてRCAのマスターを作ったのです」・・・これだけなんですけど、如何せんこれだけでは寂しい・・・ということで、今回はウェブマガ第4号を楽しんでもらうための予備知識として、「5種類の音源」と題した話を大瀧さんを含めた多くのエルヴィス・ファンに贈ります。

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  もくじ
  1.バイノーラル・テープ
  2.モノラル・テープ
  3.アセテート盤
  4.フィルム・サウンドトラック
  5.RCA マスター・テープ

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映画「闇に響く声」
DVD「闇に響く声」

映画「闇に響く声」関連の楽曲は、「バイノーラル・テープ」、「モノラル・テープ」、「アセテート盤」、「フィルム・サウンドトラック」、そしてパラマウントから「モノラル・テープ」を受け取ったRCAがリバーブ(残響音)を加えた「RCA マスター・テープ」の計5種類の形で残されました。主題曲「King Creole」を例に挙げてこれらの関係をまとめます。

1.バイノーラル・テープ

映画「闇に響く声」の楽曲は、一部を除いてハリウッドのラジオ・レコーダーズで録音され、録音機器にはバイノーラル・システムが使用されましたが、映画「闇に響く声」のバイノーラル音源は、私が知る限り2008年9月現在発表されていません。しかし、パラマウントの「Recording Information」(↓→)を見れば、バイノーラルで録音されたとの情報が、ウソではないことが分かります。

曲コード解説:主題曲「King Creole」は、「E バージョン」が没になり、再録音で完成した「EX バージョン」のテイク13が映画に使用されました。バイノーラル(2Track)録音された「EX バージョン」のトラックのひとつは「EOX」(O:オーケストラ)と呼ばれ、バンドの演奏が収録されており、もう一方のトラックは「EVX」(V:ボーカル)と呼ばれ、エルヴィスの歌声が収録されています。この2つのトラックをミックスしてモノラル(1Track)にしたものが「EXTD」(TD:テンポラリーダブ)ということになります。何故「テンポラリーダブ(暫定的なダブ)」と呼ばれているかと言えば、あとから拍手や歓声をオーバーダブするからですね。パラマウントにしてみれば、歌と演奏だけではまだ完成品とは言えないわけです。

Recording Information 5
Recording Information #5
(部分拡大 ↓)
Recording Information EX
2.モノラル・テープ

レコードで発表する際には、拍手や歓声は必要がないので「Recording Information」(↑)に見える「EXTD-1」をRCAに渡して、レコードを作ればいいじゃないか・・・そんなに簡単な話でもないのです。

【ちょこっと複雑な話1】
モノラル・テープを作った方法は、2通り考えられます。
  方法1.バイノーラル・テーブを、1Trackにミックスダウンする。
  方法2.セッションでサブ・レコーダーを回し、モノラルにミックスしながら録音する。
「方法2」は、ダビングによるヒスノイズを避けられます。

【ちょこっと複雑な話2】
更に、使用したレコーダーも、2種類考えられるのです。
  機種1.従来から使われていたモノラル・レコーダー
  機種2.2つのトラックに同じ音声信号を送られたバイノーラル・レコーダー

【ちょこっと複雑な話3】
パラマウントからRCAに渡されたテープは2本(7+10=計17曲)なのに
その内容を説明する「TAPE LEGEND」(→)は、1枚(17曲)。

これらの条件から様々なパターンで推測が出来るのですけど、現在のところ確実に言い切れるのは、「バイノーラル・レコーダーで作られたモノラル・テープ(↓)が渡されたのに、RCAはそれを活かすことが出来なかった」と言うことだけです。この詳細は次回のウェブマガで触れる予定です。


King Creole (EX-13)

TAPE LEGEND
TAPE LEGEND
2 TRACK MONO TAPE1

3.アセテート盤

「TAPE LEGEND」(→)に記されたマスター・テイクは、パラマウントによってアセテート盤にカッティングされました。このアセテート盤を音源とした海賊盤が1970年代の終わり頃から発売され、そのアセテート盤を買い取って作成されたと思われる正規盤「ESSENTIAL ELVIS VOL.3:HITS LIKE NEVER BEFORE」が1990年に発売されたのですが、それから僅か1年後の1991年には「TAPE LEGEND」(→)のテープを音源とした5CDs「ELVIS,THE KING OF ROCK 'N' ROLL-THE COMPLETE 50'S MASTERS」が世に出ています。1997年にはアップグレード盤「KING CREOLE」が発表され、「TAPE LEGEND」(→)に記されたマスターのほとんどが「テープ音質」で聞けることになりましたが、Kitty White との掛け合いで歌われる「ざりがに(Basic)」などは依然としてアセテート音源でしか発表されていないのです。これはFTD「KING CREOLE」の発売を待たないとダメなのかな。

TAPE LEGEND
TAPE LEGEND

4.フィルム・サウンドトラック

パラマウントが必要とするマスターは、あくまでも映画内で使用するバージョンですから、多くの場合は拍手や歓声が聞こえます。今回例に挙げている「King Creole」に関して言えば、ギターの弦が弾ける音や銃声を模したドラムの連打をオーバーダブして初めて「パラマウントのマスター」が完成されたわけです。(→)
次回のウェブマガでは、フィルム・マスターとレコード・マスターの違いも書き上げようと考えています。


King Creole (SOUNDTRACK)
5.RCA マスター・テープ

LPレコードの音を利用したと思われる作品を、YouTubeで見付けて来ました。(→)
RCAが独自に加えた残響音「リバーブ」が聞こえますね。
サン・レコードから買い上げた作品にも加えられた「リバーブ」・・・RCAは「自社の音」として考えていたのでしょうか・・・私の想像では、ステレオ装置が高価だった時代ですから、「左右に広がるステレオ」の導入は見送って、「時間的に前後に広がるリバーブ」をRCAが積極的に取り入れていたのではないかと考えているのですが・・・こういった話に詳しい方がいましたら教えて下さいよ。
まあ兎も角、パラマウントから「King Creole (EX-13)」を受け取ったRCAは、鉄板もしくはスプリングの振動を利用して発生させたリバーブを加え、RCAのマトリクス・ナンバー「J2PB 3612」を付けて「RCA マスター」を管理することになりました。でも、 テープボックスに書かれたメモ(↓)を見ると、「EX-13」に対して「E バージョン」の「3606」が書き込まれています。当初は同じナンバーで管理するつもりだったのでしょうね。


King Creole (RCA マスター)
2 TRACK MONO TAPE2
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ウェブマガ第3号は第4号への予備知識として書きましたけど、初心者にはやさしい内容ではありませんでしたね。
当ウェブマガを読み抜くための予備知識(曲の内容や作者等の初歩的な情報)は、
エルヴィス関連サイト等でお探しいただきたいのですが、まあ、初歩的な情報を載せたサイトや書籍が
信用しうるものであるかどうかも、日本に於いて結構深刻な問題なのかもしれません。

第4号は「ちょっとしたことなので、あまり語られていない情報」を満載する予定です。
不定期発行ウェブマガなので、いつになるのか私も分かりませんけど、
初心者に準備期間を稼がせるやさしさを持とうと心がけます(笑)


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