What a Wonderful Life
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 FTD盤の聞き方 〜 第5回 〜 「Make The World Go Away」

 2009年6月7日(日)ウェブマガ第8号 (発行 インスタント伯爵)

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前回のウェブマガ の「A Hundred Years From Now」に続き、
今回も FTD「Elvis Country」 (→)から、「Make The World Go Away」を取り上げます。
既にブックレットの解説を読みながらお聞きになった方の中には「おかしいな?」と感じられた方もいらっしゃるのではないかと。今回のウェブマガはそんな話です。

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  もくじ
  1.現在一般的に知られているセッション情報
  2.LP「Welcome To My World」バージョン
  3.FTD「Elvis Country」のブックレット解説
  4.「The Undubbed June 7 Masters」を巡る2パターンのこじつけ

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Elvis Country
FTD「Elvis Country」
1.現在一般的に知られているセッション情報

1970年6月4日から8日に掛けて、テネシー州ナッシュビルのRCAスタジオBで、レコーディング・セッションが行われ、「Make The World Go Away」が歌われたのは39年前の今日、6月7日です。カントリー系の曲が目立つことと「Tomorrow Never Comes」と「Make The World Go Away」では「Workpart」と呼ばれる「エンディングのみの歌い直し」が行われたことが特徴でしょうか。アンダブド・マスター(→)を聞いてもらえば分かるように、このセッションにはコーラスが参加していませんでした。

  1970年6月7日
   When I'm Over You
   I Really Don't Want To Know
   Faded Love
   Tomorrow Never Comes
   The Next Step Is Love
   Make The World Go Away
   Funny How Time Slips Away (Remake)
   I Washed My Hand In Muddy Water
   Love Letters

「Make The World Go Away」のレコード・マスター(→)は、テイク3のエンディング(最後の間奏以降の約1分間)を 「Workpart take1」に差し替え、
 1.1970年9月21日(エルヴィスがスタジオに現れなかった日)に
   コーラスをオーバーダブ、
   (ジョーダネアーズと女性コーラス:ミリー、ジーニー、メアリー、ジンジャー)
 2.1970年10月1日に2度目のコーラス・オーバーダブ、
   (インペリアルズ・カルテットとナッシュビル・エディション)
 3.1970年10月27日に弦楽器をオーバーダブして
完成したと一般的に言われています。



アンダブド・マスター



レコード・マスター(編集&オーバーダブド)

2.LP「Welcome To My World」バージョン

エルヴィス生前の最後から2番目のLP「Welcome To My World (1977)」B面1曲目で発表された「Make The World Go Away」は、1971年に発表されたLP「Elvis Country」のレコード・マスターと前半は同じではあるものの、後半の約1分間が別テイクで、明らかにエンディング近くの歌い方が違っていましたので、現在ほどセッション情報がファンの間で語られていなかった1977年当時でも、これが未編集マスターではないかと想像するファンが話題にしていたようです。しかし、ひとつの疑問も残っていました。

   なぜ別テイクに、コーラスと弦楽器がフルにオーバーダブされているの?

この疑問には「マスター候補をひとつに絞りきれずに、未編集テイク3と編集テイクをオーバーダブ・セッションに回した」と考えれば(合っているかどうか分かりませんけど)一応、答えになると思います。

LP「Welcome To My World」
LP「Welcome To My World」

3.FTD「Elvis Country」のブックレット解説

FTD「Elvis Country」 には、Disc1-Track12 「The Original Album」バージョンと
Disc2-Track04 「The Undubbed June 7 Masters」の2Trackが収録され、
後者(約6分28秒)には「テイク1とテイク3」が入っていると
ブックレットに書かれていますが、実際には
 1.会話とリハーサル、テイク1のアナウンス(計約50秒)(ブックレットに説明無し)
 2.テイク1(LFS:約1分43秒)
 3.テイク2のアナウンス(約10秒)(ブックレットに説明無し)
 4.テイク3のアナウンス(約9秒)とテイク3??(Master?:約3分36秒)
が入っていました。

【変だぞ?】
ブックレット解説が正しければ、Disc2-Track04に入っている「テイク3」は、LP「Welcome To My World」で発表された「未編集テイク3」のアンダブド・バージョンでなければおかしいのに、ざっと聞いただけでもエンディング近くの歌い方は、オリジナルLP「Elvis Country」の編集マスターと同じです。
更に詳細に比較するために音声解析をしてみましたら、テイク3??(Master?:約3分36秒)とオリジナルLP「Elvis Country」の編集マスターの違いは、たったひとつのギターコードで、これは丁度「Workpart」をつないだと思われる間奏の出だしの部分で聞こえるか聞こえないかだけなのです。
YouTubeに比較サンプルをアップしましたので(→)聞いてみて下さい。
テイク3??(Master?:約3分36秒)に聞こえるギター・フレーズ「タ、タ、タ、タン」の最初の「タ」が、オリジナルLP「Elvis Country」の編集マスターではカットされていますでしょ?
1音カットされた分だけ、曲の長さが短くなっていますけど、これ以外は全く同じなんです。

Elvis Country
FTD「Elvis Country」


比較ファイル「想い出のなんとか」

4.「The Undubbed June 7 Masters」を巡る2パターンのこじつけ

残念なことにFTD「Elvis Country」では「Workpart take1」が発表されませんでしたので、探さなきゃいいのに見つけてしまった疑問(笑)にすぐさま答えを出すことが出来ず、それぞれの情報をすりあわせるためには、さまざまなパターンのこじつけを考え出さねばなりません。みなさんも最初に思い付くであろうパターンは・・・

こじつけパターン1:「レコード・バージョン = 編集マスター」の定説を覆すパターン
今まで信じられてきた説である「オリジナルLP『Elvis Country』バージョンは編集マスターで、LP『Welcome To My World』バージョンは未編集テイク3」を全く逆の組み合わせであったと仮定すると、1音分の違いがあるもののFTD「Elvis Country」で発表された「The Undubbed June 7 Masters」の「テイク3」が、オリジナルLP「Elvis Country」バージョンと同じであっても不思議はないし、ブックレットの解説も間違いではなくなります。
ではなぜ折角作った編集マスターがLP「Welcome To My World」で発表されるまでお蔵入りをしていたのかという疑問に対しては、「候補を絞りきれずに未編集テイク3と編集テイクをオーバーダブ・セッションに回したのだが、最終的に未編集テイク3をマスターに選んだ」と考えれば良いことが分かります。実際に1970年6月7日に録音した「Tomorrow Never Comes」の「Workpart」は録音されたもののマスターには使われなかったと言われていますので、「Make The World Go Away」の「編集マスターお蔵入り説」もそれほど無理がない考え方であると思うのです。

こじつけパターン2:FTD「Elvis Country」のブックレットが間違っているパターン
ブックレットの解説が間違っていて、「The Undubbed June 7 Masters」の「テイク3」が既に「Workpart take1」に差し替えられた「編集マスター」だったと仮定したら、パターン1よりも更に飛躍した想像が可能です。
ブックレットには「The Undubbed June 7 Masters」の説明として、「セッション終了後すぐにフェルトン・ジャービスが作成したラフ・ミックスだからアンダブド・スタジオ録音である」と書かれています。つまりFTD関係者は「アンダブド」であることに重きを置いていて、「アンエディテド(未編集)」とは説明してはいないのです。それが意図的に行われたのか、FTD関係者も気付かずに「テイク3」と解説してしまったのかは分かりませんが、今までにも数々の情報操作を行ってきたFTD盤ですから、考えられない話ではありません。
そして「セッション終了後すぐに作成されたたラフ・ミックス」であるならば、「ラフなスプライシング(テープのつなぎ合わせ)」が行われていても不思議ではなく、ギターの1音が多いこのラフ・ミックス版「Make The World Go Away」を聞いた上で、 テイク3と「Workpart take1」のつなぎ方を再検討した可能性があるように思えるのです。

現在私は「こじつけパターン2」の方を、「良いこじつけ」(笑)と考えています。


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今回のウェブマガは、「問題提起」のままで締めてみました。
みなさんだってエルヴィスに興味を持っているからこそ、このウェブマガを読もうと思ったわけですし、
読んだ以上は、折角買ったCDをあらためて聞き直してもいいのではないかと思うんです。
そして何かに気付きましたら教えてくださいよ。

「エルヴィス考古学」は音楽鑑賞の敷居を高くするつもりはありません。
ただし、エルヴィスの歌をそれほど聞いていなかった自分に気付き、
それを喜びに変えられるファンのためだけに存在する楽しみ方であると承知していてください。


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